じゃがいもや米などの炭水化物を含む食材や野菜を、高温で長時間調理した時に「アクリルアミド」という発がん性物質が生まれます。まだ分からないことも多いのですが、健康リスクは高いのではないかともいわれていて、できれば摂取量を抑えたい物質です。

アクリルアミドとは?

この「アクリルアミド」が話題になったのは2002年。スウェーデン食品庁とストックホルム大学が、ジャガイモのスナック菓子など広く親しまれている食品などからアクリルアミドが高濃度で検出されたことを発表し、世界的ショックを与えました。

「アクリルアミド」とは、主に接着剤や塗料などに使用されている化学物質で、トンネル工事の水漏れ防止剤などに使われていることで有名です。またコーキング、食品包装など身近な製品や、タバコの煙にも含まれていますが、神経毒性や発がん性等が動物実験で確認されています。

これを受け日本では、2011年から食品安全委員会が「加熱時に生じるアクリルアミド」について評価・審議を行い、2016年に評価書案を公表しました。結果は、ヒトにおける健康影響は明確ではないものの、健康への影響について「懸念なしとは言えない」ということで、その後、国でアクリルアミドの減らし方講習会を開き各家庭で実践するよう呼びかけています。

日本が「懸念なしとは言えない」としたのは、欧米に比べると摂取量が少ないのですが(日本人の平均摂取量は、体重1キログラムあたり1日0.24マイクログラム)、この摂取量が「動物実験でネズミがアクリルアミドを食べてがんが10%増えた量と比較的近かったため」ということです。

*欧州連合加盟国の平均摂取量は、体重1キログラムあたり1日0.4~1.9マイクログラム。

アクリルアミドを含む食材や加工品とは?

アクリルアミドは、食品中のアスパラギン(アミノ酸の一種)と還元糖(果糖、ブドウ糖など)が、120度以上の高温で加熱されると反応して生じます

つまり、高温で調理される炭水化物の多い食品でできやすくポテト製品 (特にフライドポテトやポテトチップス)、穀物(米、小麦、朝食用シリアル、クッキー、トーストなど)や、モヤシ、レンコン、キャベツなどの野菜でも生じます。

また加工品では、ジャガイモを使った菓子・クラッカー・クッキー・いりごま・かりんとう・緑茶・ほうじ茶・コーヒー(特にインスタントコーヒー)・パン・コロッケ・ギョーザ、カレールーなど多くの食品に含まれています。

そして、良く焼いたウェルダンのステーキ肉、フライパンやバーベキューで調理した肉のとり過ぎが、大腸がん、すい臓がん、前立腺がんの発症に関与するという報告もあります。

厚生労働省のHPによると、日本人がアクリルアミドを口にする機会としては、56%が高温調理した野菜(炒めたもやし、フライドポテト、炒めたたまねぎ、炒めたれんこん、炒めたキャベツ等)、17%が飲料(コーヒー、緑茶・ウーロン茶、麦茶等)、16%が菓子類・糖類(ポテトスナック、小麦系菓子類、米菓類等)、5.3%が穀類(パン類等)、6.2%がその他の食品(ルウ等)と推定されるということです。

またタバコの煙にも含まれているので、タバコの副流煙には充分気をつけましょう。

毎日の調理で、アクリルアミドの摂取を抑える方法は?

人類が火を使い始めてから以降、ヒトは食材を焼いたり揚げたりして食べてきたので、急に気を遣う必要はないのかもしれません。でももし気になるなら、以下のようなことに注意してみましょう。

アクリルアミドの発生を抑える方法は2つあります。ひとつは、調理するときに高温での加熱時間をなるべく短くすること、もうひとつは、食材の保存や準備段階で糖類やアスパラギン酸を減らすことです。

(1)調理時にできること

アクリルアミドは、「揚げる」「焼く」「炒める」(フライやロースト)という調理方法だと120度以上になりやすいため発生しやすいのですが、「煮る」「蒸す」「ゆでる」の調理法なら120度以上にならないので、ほとんど発生しません。(電子レンジは、食品中の水分を加熱して温める仕組みなので、「煮る」「蒸す」などと同様発生しにくくなっています。)

でも、焼いたり炒めたりということを避けるのは無理ですし、あまりこのことに気を取られると、食の楽しみを奪ってしまいます。そこで、いつも同じ調理法で野菜や肉・魚を食べるのではなく、いろいろな調理方法でバランスよく食べることが大事です。

また、調理したときの焦げ具合が、アクリルアミドの発生量を知る目安となります。黒く焦げた部分が多いほど、アクリルアミドの発生量も多いのです。なので可能な範囲で短めの加熱時間、弱めの火力で焼いたり炒めたりすると良いでしょう。

パンをトーストするとき、じゃがいもを揚げるときなども、表面が焦げ茶色にならないよう、薄く色づく程度にしましょう。

炒める調理を、蒸らしながら炒める「蒸し煮」にするのもいい方法です。水を使った「蒸し煮」だと食材が120℃以上になりません。さらに、複数の食材を炒める場合、かき混ぜながら炒めると一部の食材だけが高温になることを防げます。

(2)食材の保存や準備でできること

じゃがいもは、長時間冷蔵することによって糖類(還元糖)が増えます。冷蔵したじゃがいもと常温保存のジャガイモを200度で10分間炒めて比較したところ、冷蔵した方が約2倍のアクリルアミドを発生しました。そこで、じゃがいもは、冷蔵庫ではなく常温(8℃以上)で保存するといいでしょう。

(農林水産省が2013年11月に「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」を公表し食品業界に対策を促していますが、カルビーではできる対策はほぼ行い、ポテトチップス用のじゃがいもの保存温度にも気をつけています)

また、いも類や野菜類をカットしてから調理前に約10分間、水にさらしておくと、アスパラギンや還元糖を食材表面から洗い流すことができ、同じ高温調理でもアクリルアミドの発生量は少なくなります。(American Cancer Societyでは、15-30分水にさらすと良いとしています)

そして肉を焼くときには、焼く前にマリネすると発生を少し抑えてくれます。「ビールやワインに漬けると効果的。特に黒ビールは抗酸化物質の働きでPAHの形成を抑制する力が大きい」という意見があります。

もしパンを焼くのなら、生地の発酵時間を長くしましょう。イーストの発酵は、生地中のアスパラギンの量を減らすので、アクリルアミドの発生も少なくなります。

コーヒーのアクリルアミドについて

コーヒーも、豆をローストする過程でアクリルアミドが発生しています。でもコーヒーのメリットはとても多く、脳機能を高め、代謝率を高め、運動パフォーマンスを向上させ、認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病・2型糖尿病のリスクを低下させることが分かっているので、飲むべきか飲まないべきか悩む人も多いでしょう。

コーヒーの中では、コーヒー代替品(ノンカフェイン・コーヒーや、大麦などコーヒー豆以外で作ったコーヒー風味のもの)に一番多くアクリルアミドが含まれ、1キロあたり818mcg。次がインスタントコーヒーで、1キロあたり358mcg。ローストされたばかりのコーヒーは、1キロあたり179mcgです。

また研究によると、アクリルアミドの量は加熱プロセスの初期にピークを迎え、その後減少します。したがって、浅い焙煎のコーヒー豆より長い時間焙煎された濃い色のコーヒー豆のほうが、アクリルアミドが少ないのです。なのでアクリルアミドのことを考えると、良く焙煎された色の濃いコーヒー豆がおすすめということになります。

アクリルアミドは、はっきりと分かっていませんが、恐らくヒトにとっても発がん性の物質です。が、コーヒーにはポリフェノールなども含まれるし、ある種のがん(例えば、腎臓がん)のリスクを減らすことも分かっています。またコーヒーを飲むことで、長生きや、多くの病気のリスクを減らすなどの健康効果があることも研究から分かっています。

これらのことを考えると、コーヒーをアクリルアミドのためにやめてしまうのは、もったいないかもしれません。近い将来もっとはっきりした研究がされるのを期待したいですね。

(参考:American Cancer SocietyのHP, Healthlineの記事など)

アメリカFDAによる、市販食品の調査データ

アメリカのFDAは、市販されている個々の食品にアクリルアミドがどのくらい含まれているか調査し、発表しています。さすが、アメリカ!(日本でも調査を行っていますが、どのメーカーのどの商品かまでは明らかにしておらず、例えば「ポテトチップス」でもメーカーによって大幅に結果が違うので消費者の役に立っていません)

FDAの調査結果は、下記のURLページの下のほうからデータをダウンロードできます。英語ですが、よかったら、どうぞ。

>> Survey Data on Acrylamide in Food(食品に含まれるアクリルアミドの調査結果)

これによると、あるメーカーのモラセスや、ポテトスナック、コーンスナックに、かなりのアクリルアミドが含まれているのが分かります。ただメーカーも対策を取るよう指導されているので、だんだんと改良されるかもしれません。

イギリスのPASによる、調査データ

イギリスでは、FSA(Food Standards Agency/食品基準庁)という政府機関があり、そこがPAS(Premier Analytical Services)という検査機関に依頼してまとめたデータがあります。2018年のものですが、下記のURLから、どうぞ。イギリスの市販ブランド商品の調査結果が、きちんとブランド名入りで出ています。(P29、P35~110)

>> Survey of Acrylamide and Furans in UK Retail Products: Results for Samples Purchased Between January 2018 and November 2018